先日仕入れたユリイカ1987年1月号の稲垣足穂特集に、あの湊谷夢吉(1950-1988)がエッセイを寄せているのだが、その内容がとても興味深かった。というのも、この早世の漫画家が、足穂的な各種のモチーフを受け継いでいる者として、士郎正宗(1961-)の名前を挙げているからだ。

……士郎正宗という名前は漫画界以外ではどう知られているのか分からないが(多分今来の若い足穂ファンのシティボーイズ・ガールズなら先刻ご承知だろうが)、その大人臭くないストイシズムや機械に対するフェティシズム、そしてその飛行願望は見事に足穂的なものと通底しているし、私はこれら新しい形のヰタ・マキニカリスは漫画の分野でだからこそ実現し得ている足穂的なポスト・モダーンであるのかも知れないと思う。又、士郎正宗氏の漫画には、他の人と違い、唯一女性としての属性を外された少女の一群や、機械人形が登場するが、それは足穂言うところのベッピンの結局単なる裏返しで、ガイア理論は隠れミノで、リラダンやホフマンをジオラマ化された世界上で、士郎氏は本気でやりたいのではないかと私には思われるのだ。(湊谷夢吉「三日月をまわす機械——タルホとの出会い」より)

すでに『ブラックマジック』(個人誌、1983年)を出していた士郎正宗は、湊谷のこのエッセイが発表された1987年1月、『アップルシード』(1985年2月〜1989年4月)を「コミックガイア」(青心社)に連載中だった。1989年5月に『攻殻機動隊』(「ヤングマガジン海賊版」)が発表されるが、その前年の6月7日に湊谷は癌のため38歳で亡くなっている。オーギュスト・ヴィリエ・ド・リラダン(1838-1889)の『未来のイヴ』(1886)から強い影響を受けた押井守(1951-)の『イノセンス』(2004年3月)が公開されるのは、湊谷のエッセイの発表から17年後のことである。

 

【ユリイカ1987年1月号 特集「稲垣足穂」内容】

加藤郁乎「半跏一睡」

高橋睦郎「地上 稲垣足穂・津田季穂・そして」

森毅「数学用語は詩語となりうるか——稲垣足穂『僕の”ユリーカ”』によせて」

川又千秋「千年紀末の残照——タルホ断想」

大原まり子「惑星大接近、しかし衝突せず…」

ねじめ正一「身の程タルホ」

あがた森魚「少年紳士の礼儀の未来について」

川村湊「スラプスティック・ファンタジー ——“少年”と”物ノ怪”の世界」

堀切直人「笑うタルホ」

湊谷夢吉「三日月をまわす機械——タルホとの出会い」

畑中佳樹「タルホ号、天に昇って一点へ——稲垣足穂の抽象的冒険」

久高将壽「タルホ・レベル・レクト・パンクト——幾何学と幻想 宇宙文学『僕の”ユリーカ”から」

岡村多佳夫「足穂と未来派」

稲垣足穂「HOSHINOさん」(絵・山田章博)「月星六話 チミちゃんの手帳から」(絵・佐々木マキ)「染料会社の塔」「螺旋街 THE SPIRAL CITY」(絵・山本美智代)「小東京人の警智」「兎と亀との本当の話」「タイトルに就て」「MAGIC BOX」(絵・野中ユリ)「目鼻が付いた天体たち」

大崎啓造「「見出された作品」解題」

渡辺恒夫「〈世界秘密〉の彼方へ——タルホ・メタフィジクスのエロス的基盤」

丹生谷貴志「輪廻と有限」

渡辺直己「「A感覚」善用の祈り」

鎌田東二「肛門論序説——無底のトポロジーのために」

野口武彦「弥勒下生と普賢行——稲垣足穂と石川淳」

笠井潔「砲弾と離脱——『弥勒』論」

稲垣足穂「足穂書簡 萩原幸子宛」

萩原幸子「配流の王様からの手紙」

 

 

 

 

 

四畳半文庫はさまざまな種類の本の買取をしております。埼玉県内および近郊には無料で出張買取もいたします。宅配着払いでもOKです。現在、買取査定額20%増。お気軽にご相談下さい。